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廿TT

譬如水怙牛過窓櫺 頭角四蹄都過了 因甚麼尾巴過不得

ヒップホッパーとしての中原昌也 − HAIR STYLYSTICS "Dynamic Hate" をもっと評価しろ

音楽

ポストモダンな音楽としてのヒップホップ

一時期「ポストモダン」が流行った。
ポストモダンすなわち「近代の次」という意味の言葉が流行ること自体が「批評」というジャンルの閉塞を象徴しているように思える。

ポストモダン派の評論家はメタフィクションやアートについて考えさせるコンセプチュアルアートを称揚した。

デイヴィッド・ベイルズ、テッド・オーランド『アーティストのためのハンドブック』(pp.53-55)では、アーティストが作品を通じてアートとはなにか再定義できるという前提そのものに批判的だ。

  • アート自体を主題にするような、「アートについて考えるアート」が流行している。
  • アーティストはしばしば自分は「アートをしている」ふりをしているだけではないかという不安におちいる。
  • 「アートについて考えるアート」はその不安を反映している。
  • しかし「作品とはなにか」という問いが作品制作にポジティブな影響を与えることはほとんどない。
  • 「作品とはなにか」を考えつづけていたら作品制作の手は止まってしまう。
  • 結局のところ、「物語を書くふりをして物語を書く」なんて不可能だ。
  • もちろん、結果として作品が世間に評価されないこともあるが、それは作品が「本物の」アートであるか、ないかという問いとは別問題だ。
  • よくない作品をたくさん制作することによって、よい作品が生まれる。

アーティストのためのハンドブック  制作につきまとう不安との付き合い方

アーティストのためのハンドブック  制作につきまとう不安との付き合い方

  • 作者: デイヴィッド・ベイルズ,テッド・オーランド,野崎武夫
  • 出版社/メーカー: フィルムアート社
  • 発売日: 2011/11/25
  • メディア: 単行本
  • 購入: 3人 クリック: 41回
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チェスとはなにかとか考えてる暇があったら、実際チェスを打ってみたほうがチェスがうまくなるだろう、というわけ。

さて、ヒップホップ(ラップ・ミュージック)はまさに音楽についての音楽だ。

“サンプリング” という作曲手法は世界中のレコードからかっこいい箇所をとってくる作業だ。

そうやって作られる曲に載っかるラップには「ルーチン」がある。ラッパーはチェケラッチョーとかイェッセッショーとか、ラッパーらしいことを言ってラップゲームに、ラップシーンに参加することが求められる。

ヒップホップは現代音楽のやっていたミュジーク・コンクレートなんかに近いアプローチを、ポップな大衆文化として成立させてしまった。

そして「音楽についての音楽」をやってる彼らの足は止まってない。ものすごい量のラップ・ミュージックが世界中で日々生産されている。

ラップ・ミュージックは「音楽についての音楽」をやることの課題を克服してしまったのだろうか。

そうではない、とぼくは思っている。作り手側は問題を克服したが、聞き手側の問題が残されている。

ヒップホップシーンの閉鎖性

長谷川町蔵パブリック・エネミーが高い評価を受けつつもラップシーンから消えてしまった理由をこう指摘している。
「ロックの世界では唯一無二の個性って強烈な売りになるんですけど、ヒップホップってクラブやラジオ番組で他のアーティスト曲と繋いでかけられることで、成立する音楽じゃないですか? でもパブリック・エネミーが他のラッパーの曲の合間にかかると場が乱れちゃうんですよ」(長谷川町蔵・大和田俊之『文化系のためのヒップホップ入門』pp.95-96)

文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)

文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)

ヒップホップはシーンの流れに乗っかっていないと売れない音楽なのだ。

ラッパーの MINT は AKB48 “Beginner” の替え歌で「閉鎖的なシーンだけの価値観で適当に韻だけを踏んでりゃそれでいんだけどどうしてもそれじゃ納得いかねー」とラップしてネット上にアップしていた(もう消しちゃったみたいだけど)。

これはその状況への嫌悪感を反映している。

シーンの流れに沿った「音楽についての音楽」はその「音楽について」の前提を共有していない層には理解できない、閉鎖的なものになる。

HAIR STYLYSTICS “DYNAMIC HATE"

中原昌也のソロ・プロジェクト HAIR STYLYSTICS はその点を自覚して音楽をやっている。

「例えば音楽聴いてもヒップホップとかって音楽クイズになっちゃってるじゃないですか。タランティーノの映画なんか映画クイズですよね、ほとんどね。何の引用だとかさ。そういうのだって開きなっちゃってるけども、やっぱりそれって間違ってるって思うんですよね。自らあらゆるものものを終わりに導いてるっていうか。もっと表現そのものに立ち向かっていくほうをみんなやんなきゃいけないんじゃないかと思うんですよね、やっぱり。」(中原昌也『ボクのブンブン分泌業』pp.311-312)

ボクのブンブン分泌業

ボクのブンブン分泌業

ヒップホップのクイズ化を象徴しているのが Rap-genius や Who Sampled だろう。

Rap-genius は「この歌詞はこんな意味でこれとこれがダブルミーニングなんだよ」とか世界中の人たちが解説しあってるサイトだ。

Who Sampled はいろんな曲なサンプリング元ネタを紹介しているサイトだ。

ぼくの ロースおじさんの日本語ラップの歴史講座に注釈をつける。 - 廿TT も「音楽クイズ」だ。

そんななかで、HAIR STYLYSTICS “Dynamic Hate" はぼくにとっては衝撃的なアルバムだった。

Dynamic Hate

Dynamic Hate

「ノイズ」に分類される音楽活動をやってきた中原が完全にリズム音楽をやってる。

風変わりなビート・アルバムとして Stones Throw なんかと同じ感覚で聞けた。

しかもラッパーの鎮座ドープネスも一曲フリースタイルで参加している。

「これはやばいな。中原さん仕事ふえるぞ。ラッパーからトラック提供の依頼されまくるんじゃないかな」と思った。

でも結果、そんなことにはなっていないみたいだ。

中原昌也の音楽にもサンプリングの手法はみられる。

しかしそれは「レコードからかっこいい箇所をとってくる」というよりは、どうでもいい音を組み合わせて作品を作るコラージュ感覚から成立している。

そこにヒップホップシーンへの媚びはない。

「お、このネタ使ってくるか。わかってるねー」みたいなのは一切ない。

アナログ機材への偏愛は便利なほうに便利なほうに流れていく時代へのアンチテーゼだ。

いわゆるサブカルっぽい(ぼくはこの「サブカル」っていう言葉の使われかたが好きじゃないんだけど 反ヘイトの野間易通やbcxxxがなんでサブカル叩きをしてるのか、代わりに説明する - 廿TT)友人にこのアルバムを聞かせたところ、

ミスチルの次くらいに自分の理解を超えたミュージシャン」

と言われた。名言だと思う。

どのシーンにも属していない音楽は開かれたものであるはずなのに、あまりにもどのシーンにも属していない音楽なので、そもそもなにをやってるのか伝わらないのだ。

でもむしろ、ヒップホップを聞き慣れていない人がこれを聞いたら、ヒップホップがもともと持っていた楽しさ、驚きを体験できるんじゃないかと思うのだ。

CD短評

Hair Stylistics "custom cock confused death"

custom cock confused death

custom cock confused death

これは “Dynamic Hate" と違い全面的にパソコンで作られてる。

聴いた感じ、やる気の微妙さが前面におしだされた、hiphop、か
こんなトラックでラップが乗ってたらすごい好きだなぁ
まず 無い話だろうけど

http://www.amazon.co.jp/review/R6K6MLTG0FBU6/

うん。これノイズじゃないよね。ヒップホップとか、なんだろうな。リズム音楽だよ。

タイトルの文字列に特に意味はなく、たぶん CCCDコピーコントロールCD)との語呂合わせ。

ECD "MELTING POT"

MELTING POT(メルティング・ポット)

MELTING POT(メルティング・ポット)

ECD日本語ラップシーンから完全に逸脱しはじめた最初のアルバム。どう考えてもラップを載せるために作られたとは思えないトラックでラップしてる。

謎の詩人ハウリング・ウドンのポエトリー・リーディングを前面に出してフィーチャリング。

おそらくアル中時代の苦肉のとして、だと思うが後半はリミックスで占められている。

なかでも HAIR STYLYSTICS のリミックスは傑作。近所のスーパーでかかってそうな死んだ音楽をむりやり踊らせるような曲。

スチャダラパー "サイクル・ヒッツ"

サイクル・ヒッツ?リミックス

サイクル・ヒッツ?リミックス

スチャダラパーのリミックス・アルバム。

アニソロのリミックスは中原昌也暴力温泉芸者という名義でやっていた時のベストワークの一つ。原曲の持ち味を殺すことなく、かつ台無しにしてる。

値段は高めだが、そうそうたる参加メンバーをみるとそれもうなずける、というとまた「音楽クイズ」になっちゃうんだけど。

今夜はブギー・バックオザケンとケンカ別れした小山田圭吾が歌うという反則技も飛び出す。