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譬如水怙牛過窓櫺 頭角四蹄都過了 因甚麼尾巴過不得

(ネタバレ)新井英樹『ザ・ワールド・イズ・マイン』のあらすじ

はじめに

新井英樹ザ・ワールド・イズ・マイン』の感想とかをネットで検索して読んでて、考察とか感想以前に、あらすじの時点で人によって解釈が違うことに気づいた。

ザ・ワールド・イズ・マイン』ははっきりとセリフで説明していなかったり、過去現在未来が入り乱れていたりするので、「どういうストーリーか」把握すること自体が難しいのかもしれない。

なので『ザ・ワールド・イズ・マイン』のあらすじを書きます。

ぼくはぼくの読みかたが正しいと思ってるけど、もちろんマンガに「正しい読みかた」なんてないし、各自が好きによめばいい。

このエントリを一つの契機として、みんなでやいのやいの言いあえたらいいかな、という感じ。

けっこう読み返すたびに印象変わるしね。

そしてぼくのいう「読みかた」って「作者の気持ちを読み取ること」を目的にしてるわけではない。

ザ・ワールド・イズ・マイン』はおもしろい群像劇だ。

おもしろい群像劇っていうのはつまり、キャラクターの各パーソナリティのぶつかり合いが結果的に当事者の意図とちがう道筋をたどってしまう様子を記述している。

ぼくが読み取ろうとしてるのは作者の意図ではなく、人間関係がたどる必然的なパターンだ。

『真説』1巻

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (1)巻 (ビームコミックス)

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (1)巻 (ビームコミックス)

1巻のシナリオはほぼ共通認識が成立しているだろう。

トシモンとヒグマドンがとにかく人を殺しまくる。

ここでは主人公のモンちゃんとトシの二人組(トシモン)が登場する。

モンは名前の通り動物のように、まったく罪悪感なく強姦や殺人を行う。

一方トシはモンちゃんに引っ張られる形で、おずおずとその犯罪に加担する。

トシモンはなぜか東京から北海道まで移動しながら消火器爆弾を設置して回っているようだ。

爆弾を作っているのはトシだが、爆弾を爆発させて無邪気に喜んでるのはモンだ。

同時に謎の巨大生物「ヒグマドン」が出現し、次々に人々を惨殺する様子が描かれる。

ヒグマドンは青森あたりから日本に上陸する。

そして、トシモンやヒグマドンに対抗する側の重要人物である、

  • 阿倍野マリア
  • 由利勘平
    • 総理大臣、通称ユリカン。
  • 塩見純一
  • 飯島猛
    • 猟師。熊打ちの名人。後にヒグマドン退治を依頼され、引き受ける。

らが登場する。

モンちゃんはおもしろ半分でトシを一度青森県警に逮捕させる。そして再度青森県警を襲撃してトシを奪還する。

トシは青森県警で暴力による取り調べを受けたことから警察を嫌うようになる。確かに青森県警の取り調べは殴る蹴るのひどいものだったが、トシのほうは爆弾によって無差別に人を殺したり、モンの強姦殺人に加担したりもっとひどいことをしているわけで、これは逆恨みに近い。

また、トシは警察に逮捕されたくない、死刑になりたくない、という思いから主体的な犯罪を行うようになる。

トシモンやヒグマドンにあっさり殺されてしまう人たちがいちいちいいキャラで、「この人たちが死んじゃうのもったいないな」と読者に感じさせる。

トシに暴力を振るっていた青森県警の山崎も、正義感に満ちた熱血キャラで、決して悪人ではない。

また、青森県警襲撃テロはテレビによって日本中に生中継される。

トシは青森県警から脱出するための時間稼ぎとして、人質の命を助けたかったら、

  1. 人命の重さってなんだ。グラム単位まできっちり計算して見積もりをだせ。
  2. 人が人を殺してはいけない理由ってなんだ。答えろ。
  3. 「世に棲む生きとし生けるものすべてが、自由に、平和に平等に美しく明るく楽しく暮らせる、自由と善意にと優しさに満ちた世界を要求する」

と無理難題を突きつける。

トシモンの映画『ランボー』のような姿を、「かっこいい」と思う人たちも出てくる。

『真説』2巻

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (2)巻 (ビームコミックス)

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (2)巻 (ビームコミックス)

2巻ではトシが気弱そうな青年の顔から、いかにも冷酷そうな顔つきに変わる。

トシはモンに無理やり仕向けられ、はじめてナイフで人を殺す。銃や爆弾でなく直接手で人を殺す。

そしてトシモンは警察からの逃亡の過程で、雪山に入る。

ここでモンはヒグマドンに遭遇して殺される幻影を見る。この遭遇は夢か現実かあいまいな形で描かれる。

それ以降、モンは人の痛みを「痛み」として感じられるようになる。いままでのように罪悪感なく人を殺すことができなくなる。ちょっとした傷一つに「痛い」と共感するようになる。

一方トシはやはり「死刑になりたくない」という思いから、より積極的に殺人その他の犯罪を行うようになる。

さらに、マスコミの取材等に消耗したことによってトシの母親は自殺する。

それをテレビで知ったトシは開き直り、自分たちの仲間を増やしたいと思いつき、Yahoo! のトップページをハッキングして、「トシモン」という名前を名乗り、「殺人代行!! 殺して欲しい人間のいる方 以下のホームページへ」などのメッセージを載せる。

これに日本中は熱狂する。日常生活でフラストレーションを抱えた人たちにとって、「殺人」はもっとも手っ取り早い解決策だからだ。

また、青森県警襲撃時に生中継された、モンの「俺は俺を肯定する」などの意味ありげな言葉は世界中に波及してインパクトを与え、イスラム過激派のテロ組織等もこの言葉を真似る。

一方総理大臣のユリカンはこのインターネットやテレビといったメディアによって生まれた熱狂にメディアで対抗しようとする。

青森県警襲撃時のトシのみっつの要求に多くの人々は混乱するが、ユリカンはそれが単なる時間稼ぎの上っつらからくる問いかけに過ぎないことに気づいている。

薄っぺらに見える「人を殺してはいけない」「命は尊い」というあたりまえの道徳をひっくり返しただけの、「人を殺せ」というメッセージはさらに薄っぺらなものだ、ということを伝えようとする。

そのためにアイドルやスポーツ選手やロックミュージシャン(明らかに矢沢永吉っぽいやつ)を集めて視聴率を上げまくり、緊急特別番組を企画、実演する。

『真説』3巻

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン 3巻 (ビームコミックス)

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン 3巻 (ビームコミックス)

3巻くらいからモンちゃんがイケメンになってる。護身のために犯罪を犯すトシと、そもそも善悪の区別がつかないモン、という対比がなされる。

ユリカンの緊急特番は結果的にトシをさらに刺激する。

トシはいろんな有名サイトをハッキングし、「殺せ」「ユリカンは生放送で全裸になれ」「天より降りたる大きな力が災いをもたらす」等のメッセージを打ち出す。

トシモンは逃走中、一巻で登場したマリアに再会する。が、今度はトシによって「人質」という形でトシモンに同行することになる。

モンは次第にマリアをぬいぐるみのように愛玩するようになる。

マリアはもともと優しい女子高生だったが、ここではその優しさは、関わるものすべてを救おうとするかのような、傲慢ともいえるものとして描かれる。

その後、偶然トシモンの移動とヒグマドンの移動が仙台で交わる。

ヒグマドンの破壊がはじめてはっきりとテレビで捉えられる。

このことにより「天より降りたる大きな力が災いをもたらす」というメッセージが予言のようになる。

『真説』4巻

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン 4巻 (ビームコミックス)

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン 4巻 (ビームコミックス)

ヒグマドンの予言が偶然成立してしまった事態をユリカンは重く受け止める。

彼は1巻で登場した矢沢永吉っぽいやつに舞台を借り、公開ストリップを行う。

しかし矢沢に憧れるバンドメンバーの一人はこれを矢沢の堕落と受け止め、ユリカンをナイフで刺す。

ユリカンのパフォーマンスがテロによって幕を閉じたことで、テロリズムの熱狂はさらに過熱する。

一方、マリアは「人を殺してはいけない」というメッセージをモンに伝えるが、モンにとってそれはマリアへの愛着を深めるだけの結果となった。

ヒグマドンという絶対的な存在によって一度「痛み」を理解したモンだったが、マリアを守るためだったらトシを殴っても平気になる。

マリアの「人を殺してはいけない」というメッセージは「マリアを殺してはいけない」というメッセージとしてモンに理解され、モンは再び動物のように意味もなく人を殺す存在に戻り、大通りで派手に人を殺しまくる。

それを追うのがやはり1巻で登場した警察の塩見らだ。

『真説』5巻

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン5巻 (ビームコミックス)

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン5巻 (ビームコミックス)

トシモン、そしてマリアは山中で塩見率いる警官隊に追いつめられる。

塩見は一巻から一貫して「人質を守りたいがためにトシモンの暴走を止められなかった」と苦悩してきた。

ここでも塩見は、人質マリアを救い出そうとするが、マリアを奪われることを恐れるモンの迫力に押された警官隊が発砲。マリアは死ぬ。

トシは逮捕されるが、モンはマリアが死んだ怒りでその卓越した身体能力をフルに発揮し、警官隊を素手で殺す。

そこにヒグマドンの混乱も加わり警官隊はほぼ全滅、塩見とトシモンだけが生き残るという悲惨な結果に終わる。

マリア死後、モンはすべてを諦め悟りを開いたかのようになり、白いオーラをまとったような姿で描かれる。

モンは世界の反米勢力、暴力団、暴走族、テロ組織等のカリスマになっていく。

テロ組織によって、逮捕されたトシは奪還され、トシモン被害者遺族への生贄として殺される。

しかし、ヒグマドンを追う飯島猛を取材していた新聞記者によって、モンの出生が明かされる。

モンはネグレクトされた子どもで、はじめて人間らしい生活をしたのは、実存主義にはまったバカな空手家の山ごもり生活に利用されたときだった。

実存主義についての詳しい説明はやっかいだが、あれはキリスト教的な価値観に対するアンチテーゼとしての面をもっていた。

実存主義は「人間には悪いことをする自由もあるのに、なぜ悪いことをしないのか」というような問いかけをする。

バカな空手家はそれをそのまま真に受け、空手を強姦や殺人に使った。

モンの「俺は俺を肯定する」等の意味深に見えた発言も、単にそいつに教えられた言葉を反復していたにすぎなかった。

「抗うな 受け入れろ」等の悟りのようなフレーズも、母親からネグレクトされ愛情を得られなかったことからくる諦めにすぎない。

しかしモンの神格化はさらに進行し、世界中のテロ組織はモンを祭り上げて一体化していく。

そのエスカレーションの果てはアメリカ的な核の傘に対抗した、世界規模の核攻撃テロにエスカレーションする。

世界は滅びる。

しかしモンだけはテロ組織によってコールドスリープ状態にされて、小型ロケットで宇宙へ打ち出される。

モンの体は別の星に漂着し、その死骸から生まれたバクテリアが新たな生命を生み出す。

ザ・ワールド・イズ・マイン』は、その生命が二足歩行する類人猿まで進化した絵を背景に「神はあなただ」という一文で終わる。

ヒグマドンみたいな絶対的な自然/超自然的存在をマリアという個人では代替できなかった。

しかしそこで人間の暴力を肯定してしまったことで、一度世界は滅んだ。

じゃあ、次はどうする? やり直せるとしたらどうする? 神はあなただ。