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廿TT

譬如水怙牛過窓櫺 頭角四蹄都過了 因甚麼尾巴過不得

「ラッパーの後ろにいるDJってなにやってるの?」解説

音楽

はじめに

わりと軽い気持ちで書いた、


ロースおじさんの日本語ラップの歴史講座に注釈をつける。 - 廿TT

が意外と好評だったので、みんなヒップホップ(ラップ・ミュージック)とか好きなのかなーと思って、今回は「ラッパーの後ろにいるDJってなにやってるの?」DJってなにしてるの?必要なの? - 見る前に飛べ踊れ )を解説してみたいと思います。

DJ っていう言葉は非常に多義的で、

  • ラジオDJ:司会者・パーソナリティ・選曲者
  • クラブDJ:クラブっていう場所でみんなが一晩中遊べるように絶え間なく音楽をつなげて流す人
  • レゲエDJ:レゲエを歌う人

などがいるのです。で、もちろんヒップホップのDJもいるんだけど、ヒップホップのDJの中にも、

  • ターンテーブリストって呼ばれるような、レコードプレーヤーとレコードを楽器みたいに使って演奏する人
  • ラッパーの後ろにいるDJ

がいる。


「DJケンタロウやDJ威蔵、KIREEK」っていうのはターンテーブリストって呼ばれるような人たちで、ぼくはあんまりこのジャンルは聞けてない。チェックできてない。

でもとりあえず「世界で一番スクラッチ(レコードこするの)がうまいDJってだれ?」みたいな話題になったら、たいてい真っ先に名前が上がるのは、Q - バートですね。

ターンテーブリストの中で特にぼくが好きなのは、キッド・コアラ。

Q - バートにみたいにかっちりしたスクラッチを決めるタイプではなく、ちょっと粗い感じなんだけど、そこがふわっとして幻想的だったり、おもちゃ箱みたいで楽しかったりします。

あと、朝ドラの「あまちゃん」の「てれってってってってってってれてれ」って感じのフレーズが印象的なテーマ曲を作曲した大友良英さんも実は超ユニークなターンテーブリストの一人です。


いい曲。

ただし大友良英はどっちかというとフリー・ジャズ実験音楽よりの人で、ヒップホップカルチャーの影響はあまりうけてないと思うけど。

……っていうことだけ言っといて、「ラッパーの後ろにいるDJ」(バックDJ、ライブDJ)の説明に移ります。

本当にオールド・スクールの時期(1970年代以前)

本当にラップ・ミュージック誕生の最初期からラップのDJをやっていた人たちの音っていうのは、レコードやアルバムという形では、あんまり曲が残っていない。

なのでぼくはぜんぜん詳しくない。よく知らない。このころの音は、テープとかドキュメンタリーのフィルムみたいな形で残っていて、後に再評価された。

ヒップホップ(HIPHOP)の歴史 ~オールドスクールから現代まで~ などを参照してください。

ラッパー(MC)ってもともとは、パーティーでDJがかける曲を盛り上げる、あおる人だったみたい。

たしか「アメリカン・グラフィティ」っていう映画で、机とかを指で叩きながらラップみたいなことをするシーンがあったと思う。(いや「ワイルド・スタイル」だったかな? 忘れた。)

あとラスト・ポエッツとかジャズの人たちも、昔からラップっぽいことはやっていた。

アメリカ黒人カルチャーの中に、リズムにあわせて韻を踏んだ言葉遊びみたいなものは、伝統的にあったみたい。

オールド・スクール(1980年代):ブレイクビーツという偉大な発明

まず最初に取り上げたいアルバムは、ラップ・ミュージックの名盤 Run - DMC のライジング・ヘルだ。

Raising Hell

Raising Hell

で、DJっていうのがなにをやっているかっていうのは、"peter piper" と、

マルディ・グラを聴き比べるとわかりやすいと思う。

「てってってってー」とか「チンチンチチンチンチンチチンチン」とかって感じの、おんなじ音がどっちにも入っているでしょう。

これはボブ・ジェームズのマルディ・グラのほうが元ネタで、ラン - DMCのDJは、同じレコードを2枚使って、「マルディ・グラ」の中のドラムやパーカッションのリズムが印象的でかっこいい箇所(これをブレイクと呼ぶ)だけをしつこく繰り返しかけているのだ。

あとビースティ・ボーイズの "brass monkey" と、ワイルド・シュガーの "bring it here" も聞いてみて欲しい。

これもかっこいいブレイクだね。イントロからおんなじ音がどっちにも入ってて、レコードを2枚使って同じ箇所をしつこく繰り返してるのがわかるでしょう。

このブレイク・ビーツっていうのは、ヒップホップに限らず全音楽史的にみても大発明だと思う。

でも、これはラン - DMCのDJ、ジャム・マスター・ジェイが発明したわけじゃない。

アルバム「ライジング・ヘル」に入ってる曲、「マイ・アディダス」の中で、ラン - DMCはこう歌ってる。

"We took the beat from the put it on TV"
(俺らはビートをストリートから持ってきて、テレビでそれをかける)

ボブ・ジェームズの「マルディ・グラ」とか、ワイルド・シュガーの「ブリング・イット・ヒア」は昔から、ストリート(黒人コミュニティ文化圏)内で「かっこいいブレイクが入ってる曲」として認知されていて、同じ箇所を繰り返しプレイする、ということが行われていた。

上に乗っけるラップがランDMCや、ビースティ・ボーイズのオリジナルだ。

ちなみに、ラップ・ミュージックの世界初のヒット曲といわれてるのは、シュガーヒル・ギャングの「ラッパーズ・ディライト」なんだけど、これはライブ映像を見ればわかる通り、後ろにはDJじゃなくてダンサーとビッグバンドがいる。

ただしバンドはおんなじようなフレーズをしつこく繰り返し演奏してるでしょう。

これはブレイクビーツの「レコードを2枚使って同じ箇所をしつこく繰り返す」というストリートカルチャーの影響を受けながらも、それをマネタイズするために、ちゃんとバンドとかダンスとかいれて、きちんとショーアップしてるんだね。

あと歌詞(リリック)には、オーネノゥ("on and on") とか、チェケラゥ("check it out")、ベケダン("break down")とか、マイクがどうしたとか、今のヒップホップでもよく使われる定番ルーチンが頻出する。

これはシュガーヒル・ギャングのオリジナルではなく、ストリートカルチャーにもともとあった言葉使いだ。

で、シュガーヒル・ギャングみたいな華やかにショーアップすることでラップ・ミュージックを売りだそうという流れへのカウンター的に、「俺ら本来のヒップホップじゃ後ろにはDJだけいれば十分なんだよ」って感じで出てきたハーコー(ハードコア)なラップ・ミュージックが、ランDMC

「おいコラ(brah)お前ら、俺らのストリートカルチャーを売りだして(セル・アウトして)くれちゃってるなあ? 大衆受けねらって(マスアピールして)よぉ。けどな、俺らのラップのほうが本物の(リアルな)ヒップホップだぜ? ヤノマスティーロ(yo know my style)、ユノーセン(you know sense)、 分かんでしょ言ってる意味が。わからしてやんよ。おれのラップを聞きな(listening up)」

というわけ。

ニュー・スクール(1990年代):トラックメイキングの発達

まずこの曲を聞いてくれ。

ドラムとかベースの低音部に対して、高音部を上ネタというんだけど、この曲 ”Mass Appeal” の上ネタはなんだろう。

ピアノの「ピッ……ピッ……ピッ……ッピッピッピッ……」と繰り返される音の元ネタはなんだろう。ぼくにはわからない。(多分ググれば分かると思うんだけど)

ぱっと聞きではさっき紹介したブレイクビーツみたいに、元ネタのどの部分を繰り返してるかはわからないほど改変されている。

この曲(トラック)を作ったのは gang starr というグループのDJプレミアだ。

ブレイクビーツは「レコードの同じ部分を繰り返しかける」という形で誕生したけど、サンプラーという音を取り込んで加工したり、再編集したりする機材を利用するようになって、サンプリングして曲を作る(トラックメイキング)方法が進化していく。

今ではコンピューターでも曲を作れるようになって、トラックメイキングはずいぶん進化した。

で、曲作りが進化して、DJとトラックメイカーは分化した。

皮肉なことに、曲が進化した結果、ラッパーの後ろで曲をかけるDJは仕事が減った。

最初のブレイクビーツの頃、ライブDJはレコードの針を巻き戻してまた再生したり、レコードをこすったりするので忙しかったけど、今はパソコンでもDJできるし、CDJとかっていうCDを使ってDJできる機材もある。

だから最近のラップ・ミュージックのバックDJは、ほとんど音楽プレーヤーのボタン押し係みたいになってる。

ライブのときのバックDJ

最近のラップ・ミュージックのバックDJは、ほとんど音楽プレーヤーのボタン押し係みたいになってる。

こうなってくるとヒップホップのライブは、ほとんどカラオケ大会みたいになって、あんまりおもしろくなってくる。

っていうか、ぼくがはじめてヒップホップのライブを見たときの感想は、「ただのカラオケ大会じゃんこれ、つまんねえな。なんか音も小せえし」だった。

ラッパーがライブをやることが多いクラブっていう場所は、基本的にライブハウスとくらべると音が小さいんですよね。

設備とかの都合もあるけど、

  • クラブはお客さんが一晩中遊ぶ場所なので、隣の人と会話ができないほどの大音量っていうのは好まれない。
  • ライブハウスは叫んだり暴れたりしにいく場所なので、でっかい音が好まれる。

それでラッパーは、セイホー(say ho;言えよホー)とか騒げー(scream)とかのコール・アンド・レスポンスでお客さんを盛り上げたり、プチャヘンザ(put your hands up;手をあげな)とかクラップユアハンズとか言って、ライブならではの会場との一体感を出そうとしたりして、いろいろ工夫してる。

でもぼくはあんまりセイホーとかプチャヘンザとかを何度もやって、無理やりフロアに一体感を出そうとするラッパーのライブは好きじゃない。おれは一人になりたいんだ。好き勝手にやらせてくれ。騒げーとかいわれなくても、騒ぎたきゃ騒ぐし黙りたきゃ黙るよ。

そんなぼくが見たことがある中で、ライブがおもしろかったラッパーを何人か紹介して終わります。

ライブの盛り上げ方が一番うまいのは、ライムスター。

ライムスターは、かなり自覚的にライブの盛り上げかたを工夫してる。

「音出してんのうちで使ってるレコードプレーヤーですから」「でもそれをこうやって工夫して工夫して」「エンターテイメントになる」とライムスターの宇多丸さんは語ってる。自覚的でしょ。

ラップで掛け合いするところとか、すごい練習してるなあーという感じがある。まじめな人たちなんだろうな。


サイプレス上野とロベルト吉野も盛り上げ方うまい。

あえてアナログターンテーブル(レコードプレーヤー)にこだわってロベルト吉野がスクラッチして、サイプレス上野が「ヒップホップ体操」とか言って観客に変な動きさせたり、「bounce 祭り」とか言って飛び跳ねまくったりするヤケクソなプロレスみたいな感じが楽しい。


あと、鎖グループのMC漢のライブは別の方向性でおもしろい。

彼は他の多くのラッパーとは違ってお客さんを煽って盛り上げるようなことをほとんどせず、やる気なさそうな感じで淡々とラップする。

でも漢は独特の雰囲気を持っていて、ゆるい感じなのに不思議とフロアのテンション(緊張感)を一定のまま維持する。

あのライブの冷めた盛り上がりの雰囲気は、すごく気持ちいい。


で、ぼくが今一番ライブがかっこいいと思うのは、ECD + illicit tsuboiだ。

ECDはとにかく声を張り上げてラップする。

↑上の動画みればわかると思うけど、サンプラーのボタン、押しっぱなしならループするのに押したり離したりして、指一本で演奏する。

その横ではイリシット・ツボイがレコードをとにかくめちゃくちゃなこすりかたする。

レコードの音溝じゃないところに針滑らしてグギャーってノイズを出したり、ビートをジャグリングしたり、レコード割ったり。


最高でしょ。

ECDはアルバム一枚ごとにスタイルが変わっていて、こないだまでサックス吹いたりしてたかと思えば、ちゃんとした打ち込みをせずにドラムマシンのボタン指で押して演奏したり、いまはライブでサンプラーあんま使ってないのかな?

FJCD-015

FJCD-015

インタビューでは、

「ずっとECDを聴いてきてくれる人に応えたい」という気持ちもなくはないけど、やっぱり裏切るよね。結果的には(笑)。

ECD『FJCD-015』をリリース。 « Riddim Online

と語ってるけど50過ぎのおっさんが地団駄踏みながらとにかく声を張り上げてラップして、その横でツボイさんがレコードをズタズタにしてる限り、ぼくはECDのファンで居続けると思う。

いるべき場所 (Garageland Jam Books)

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