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譬如水怙牛過窓櫺 頭角四蹄都過了 因甚麼尾巴過不得

高橋誠『かけ算には順序があるのか』福岡伸一書評評

福岡伸一は読めてないです。

『かけ算には順序があるのか』で検索して現時点でトップにくる書評は、
書評:かけ算には順序があるのか [著]高橋誠 - 福岡伸一(青山学院大学教授・生物学) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト
なんですが、この書評は残念ながらダメです。福岡伸一は読めてないです。

今、小学校では、「6人に4個ずつミカンを配ると、ミカンは何個必要ですか」という問題に、6×4=という式を書くと、バツにされてしまうという。

書評:かけ算には順序があるのか [著]高橋誠 - 福岡伸一(青山学院大学教授・生物学) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

かけ算とは、「ひとつ分の数」×「いくつ分」によって「ぜんぶの数」を求める操作であり、順序の理解は、かけ算の導入期のルールとしてぜひ必要なのだという。つまり4×6が正解。

書評:かけ算には順序があるのか [著]高橋誠 - 福岡伸一(青山学院大学教授・生物学) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

福岡伸一はこの教え方に対して、

  • 『大げさにいうと本書は、人類が長い時間かけて獲得してきた知の紆余曲折(うよきょくせつ)を、教育という「便宜」がどこまで整理してよいか、あるいは教師たちはそのことにどれほど自覚的か、という思想史的な問いかけなのである。』
  • 『(数学は自由でいい。しかし)そんな自由さを獲得するためにこそ勉強するわけだが、最初からそうは見通せないのがつらいところ。』

と結論づけ、良否の判断を留保してお茶をにごしています。

しかし、高橋誠は、
『かけ算の式には「1つ分の数×いくつ分」という,数学的にも算数的にも正しい順序がある,と子どもたちに教え,自らもそのように信じているとしたら,それは改めるべき間違いです.』(p.47)
と明言しています。

なぜ、この齟齬が生じたか? 
福岡は高橋の見解に対して、意図的に反対意見を述べたているわけではありません。

単に本書『かけ算には順序があるのか』の文章をちゃんと読んでいないために、ズレているのです。

その証拠は以下の記述です。

遠山啓、矢野健太郎森毅なども活発に発言している。彼らは順序派。もし6×4と書くならば、それはトランプを配るときのように、一巡あたり6個ミカンがいり、それを4回繰り返すという意味になると。あの森先生ですら結構しんきくさいことを言っていたのですね。

書評:かけ算には順序があるのか [著]高橋誠 - 福岡伸一(青山学院大学教授・生物学) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

と、福岡は述べますが、森毅らの主張は「1つ分の数×いくつ分」という順序が、「約束にすぎない」とした上で、その約束にしたがうとしても、「一巡あたり6個ミカンがいり、それを4回」と考えているとすれば、6×4という式でも間違いではない、というものです。(p.15参照)

福岡は、

しかし、と著者は食い下がる。遡(さかのぼ)れば、エジプトの記述には人数が先にくるかけ算があり、そもそも人間の思考の始まりは6人×4個的なものだったのではないか。

書評:かけ算には順序があるのか [著]高橋誠 - 福岡伸一(青山学院大学教授・生物学) | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

と続けます。

この記述を見る限り福岡伸一は、高橋の問題提起を「人数が先にくるかけ算」が正しいか? 個数が先にくるかけ算が正しいか? という問いだと完全に誤解しています。

順序が「約束にすぎない」という前提を理解していません。

また、「エジプトの記述には人数が先にくるかけ算があり〜」という一文は本書のどこを指しているのか不明です。

『かけ算には順序があるのか』はどんな本か?

高橋誠『かけ算には順序があるのか』は、第一章で、遠山啓らの提唱した、かけ算を「“1あたり”から“いくつ分”を求める計算」と定義して導入する方式が、伝言ゲームを経て、かけ算順序こだわり教育につながった経緯を明らかにします。

第二章では、現在のかけ算九九の形が完成するまでの歴史が述べられます。

第三章では、なぜ「2時から5時までは3時間」で「2日から5日までは4日間」なのかについて、分離量・連続量という考えを用いて説明します。ここは第一章で批判された遠山啓らが部分的に再評価される章だともいえます。

高橋誠『かけ算には順序があるのか』はかけ算の歴史という側面からアプローチしているため、かけ算順序こだわり教育に対する徹底批判を期待して手にとった私としては、若干もの足りない面もあります。

しかし、本書は「歴史」の本でありプロパガンダの本ではないため、そのような期待はないものねだりでした。

かけ算順序こだわり教育の意味のなさは、
かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきである
に詳しくまとめられています。

以上の点は高橋誠本人が述べている通りです。

本書の面白さは、かけ算順序こだわり教育に意味がないことを前提とした上で、なぜそのような教え方が成立したか、起源から説明してくれるところにあります。誤解のなきようにお願いします。

かけ算には順序があるのか (岩波科学ライブラリー)

かけ算には順序があるのか (岩波科学ライブラリー)