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譬如水怙牛過窓櫺 頭角四蹄都過了 因甚麼尾巴過不得

守護霊とか地縛霊とか、現代日本人の「霊」概念はどこから来てるのか

「死後の世界」はポップカルチャー

人間が死んだら幽霊になる……というのはいつの時代もあるあたりまえの認識のように見えて、実はそうでもないかもしれない。

仏教では、人が死んだら輪廻するという世界像を採用してる。
キリスト教では、死んだ人は最後の審判に復活する。

宗教者であることと幽霊を信じることは両立しない場合が多い。

でもいま、怖い話をしているとふつうに「守護霊」とか「地縛霊」とかの用語が出てくるし聞き手もそれを理解する。

2次元ラジオ 怖い話がしたい

これはなかなかすごいことだ。「無宗教の国」日本の人たちの間に「霊」についての共通認識が成立している。

じつは、死生観というのは科学や宗教から直接生まれてくるものではない。その時代、その地域の「空気」みたいなものだ。


心のともしび 宗教の時間 - 廿TT

ここでは「守護霊」、「地縛霊」などの用語がどこから来て、どうやって浸透していったのか考え、いま分かる範囲で記していく。

「霊」という古くからある概念も、進化論写真という科学技術の影響を受けて変容していることがわかるだろう。

まちがいがあったら教えて頂けると幸いです。

起原:守護霊、地縛霊、背後霊、浮遊霊

「守護霊」、「地縛霊」のそもそもは、英国心霊主義にさかのぼれる。

守護霊マイヤースフレデリック・ウィリアム・ヘンリー・マイヤース - Wikipedia)の類魂説類魂 - Wikipedia)に由来する。

いまぼくは、「マイヤースの類魂説」と書いたが、マイヤース自身が類魂の概念をまとめたわけではない。

マイヤースの死後、ジェラルディン・カミンズが「マイヤースの死後通信を受け取った」という体でまとめたのだ。

  • 1932年、"The Road to Immortarity"(邦題:永遠の大道/ジェラルディン・カミンズ著、近藤千雄訳、心の道場刊)。
  • 1935年、"Beyond Human Personality"(邦題:個人的存在の彼方/ジェラルディン・カミンズ著、E.B.ギブス編/近藤千雄訳、心の道場刊)

類魂説はけっこう複雑だが、概略を理解してる範囲で述べる。

霊(スピリット)の世界にも家系みたいなもの(霊系と呼ぶことにする)があり、これは現世の家系とは一致していない。その霊系に属する霊の集団を類魂(Group Soule)という。

類魂の中心的存在である守護神の指名を受けた、地上の霊の責任者みたいな存在が守護霊である。

背後霊も守護霊と同源の概念と思われるが、訳語の違いから

  • 守護霊:いいもの
  • 背後霊:怖いもの

的なニュアンスで使用されている印象である。

一方、地縛霊神智学霊性進化論から生まれた概念のようだ。

進化論はプラヴァツキーらにとって、古い教会神学に一撃を加えるものと受け取られた。

そして、進化論的な考えかたを取り入れ、キリスト教的な世界像が解体、再解釈されることとなる。

『コナンドイルの心霊学』によれば、世俗的な欲望にとらわれて霊性が芽生えないまま他界したものは、霊界にいかずにそのまま地上に留まる。これを地縛霊と呼ぶ。

霊界 - Wikipedia

浮遊霊も地縛霊と同源と思われる。ただし言葉のニュアンスとしては、

  • 浮遊霊の中でも特に、場所にいつく霊を地縛霊
  • 地上に留まっている霊一般を浮遊霊

と呼び、区別しているようだ。

浮遊霊 - Wikipedia

日本での浸透

英国心霊主義、心霊学の概念を最初期に日本に紹介し、「守護霊」、「肉体・幽体」といった語、概念の基礎を作ったのは浅野和三郎である。

浅野和三郎 - Wikipedia

これらの語を、日本でより一般層に定着させた功労者の一人は、中岡俊哉と思われる。

中岡俊哉 - Wikipedia

特に、心霊写真の現物をずらっと並べた1974年の中岡『恐怖の心霊写真』刊行は、「霊」に対する一般イメージの固定における、一つの節目と言える。

またつのだじろうが『恐怖新聞』、『うしろの百太郎』の連載を開始したのは1973年である。

つのだじろう - Wikipedia

また、宜保愛子も1975年ごろからテレビ等の出演が増え、「守護霊」、「肉体・幽体」といった語を用いて霊能力を披露した。

現代日本人の心霊主義的な「霊」観が広く普及したのは1970年代以降と思われる。

参考文献

以下本エントリーを書くにあたって参照した文献を、読み物として読んでおもしろいと思われる順番に並べる。

大田俊寛、『現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇』 (ちくま新書): 各種トンデモ本やテレビ、SFを通じて断片的に接してきたものが初めて思想史的につながった。これを読んでようやく幸福の科学がわかってきた。


原田実の日本霊能史講座―と学会レポート

原田実の日本霊能史講座―と学会レポート

原田実、杉並春男、『原田実の日本霊能史講座―と学会レポート』:卑弥呼から宜保愛子までをつなげて論じるという荒業で、現代の「霊能」概念がどこから来ているか明らかにしている。


一柳廣孝、『「こっくりさん」と「千里眼」 ―日本近代と心霊学― 』(講談社選書メチエ):なかなかおもしろそうなん本なんだけど、まだあまりちゃんと読めてない。


コナン・ドイルの心霊学 (新潮選書)

コナン・ドイルの心霊学 (新潮選書)

アーサー・コナンドイル、近藤千雄『コナン・ドイルの心霊学』 (新潮選書):ビリーバー視点で書かれた本なので一般向けとは言えないが、訳注等もていねいで、資料的価値はある。

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