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譬如水怙牛過窓櫺 頭角四蹄都過了 因甚麼尾巴過不得

金融緩和の目的は「円安で輸出拡大を呼びこむこと」じゃありません

経済

円安は輸出拡大を呼び込まないという批判

おととい、2014年11月1日の東京新聞の一面、見出しは「日銀 追加緩和を決定」「進む円安 物価高騰懸念」だった。

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日銀が追加緩和を決定したことを批判している。

この記事はこう締めくくられる。

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「円安は輸出拡大を呼び込まず、物価上昇の可能性を高めるデメリットのほうが大きい」

社説も同じ論調。つまり彼らは、

  • 金融緩和のメリット:輸出拡大
  • 金融緩和のデメリット:物価上昇

と認識している。

でも、金融緩和の目的は輸出拡大じゃないし、物価上昇は一概にデメリットとは言えないのだ。

金融緩和の目的

まず金融政策とはなにか。

金融政策とは中央銀行(日銀)が行う、日本全体で流通するお金の量(マネーサプライ)のコントロールのことを指す。

日銀はお金を刷ることができる。

経済を刺激したいとき、日銀は現金を刷って国債を買う。結果として日本全体で流通するお金の量が増える。これが金融緩和だ。

ものの値段は需要と供給で決まる、という話はどこかで習ったと思うけど、お金が増えるとお金の値段(=金利)が下がる。

  • お金の値段が高いときは(お金が希少なので)みんな現金を持ちたがる。
  • お金の値段が低いときは(お金に希少価値はないので)現金を持ちたがらない。つまり、いろんなものを買ったり投資したりする。借金もしやすくなる。

さて、この枠組みで言えば、いまは「経済を刺激したいとき」なので金融緩和するときのはずだ。

ここまでの話に東京新聞が金融緩和のメリットとした「輸出拡大」は登場していないことに注意してほしい。

円安の弊害

東京新聞は物価上昇を金融緩和のデメリットとしていた。

2014年11月1日の東京新聞の第5面、社説にはこうある。

製造業大手の拠点は海外移転が進んだために円安でも輸出が伸びない経済構造になったうえ、中小企業にとっては原材料の輸入価格が高騰、価格転嫁がままならないために経営を圧迫している。この日決算発表があった大手自動車メーカーが早速「取引先の部品メーカーはこれ以上の円安を望んでいない」と強調したほどだ。

東京新聞:日銀追加緩和 危ない賭けではないか:社説・コラム(TOKYO Web)

ここでの論点は二つ。

  1. 製造業大手の拠点は海外移転が進んでいる。だから輸出は伸びない。→でも円安になれば、円で計算した海外資産の価格は上がるはずだ。
  2. 中小企業にとっては原材料の輸入価格が高騰。→でも生産拠点が日本にあるなら、円安の分だけ輸出はのびるはずだ。

ついでにこちらのデータも見てみよう。



Pacific Exchange Rate Service - Database Retrieval System より。

リーマン破綻は、2008年9月(リーマン・ショックとは - コトバンク)。

たしかに今の円安は、リーマン・ショック前の水準に戻った程度だ。

円安の弊害、それほど大きくなさそうだ。

デフレはなんで悪いか

東京新聞の社説はこう続く。

何より、現在の景気停滞の原因は、国内総生産(GDP)の六割を占める個人消費の落ち込みが大きい。それは消費税増税に加えて円安による物価上昇が家計を直撃しているためだ。さらなる円安は、輸入価格を押し上げ、食料品や生活必需品などの「悪い物価上昇」を招くおそれが強い。賃金の上昇が物価上昇に追いつかず、消費が一段と冷え込めばスタグフレーション(景気後退下の物価上昇)にさえ陥りかねない。

東京新聞:日銀追加緩和 危ない賭けではないか:社説・コラム(TOKYO Web)

円安の弊害については先に論じた。

残る論点は「賃金の上昇が物価上昇に追いつかない」という主張だ。

これはたしかにある。インフレになってもその分がすぐに給料に反映されることは少ない。
こういうのは、粘着賃金と呼ばれる。

でも賃金の粘着はデフレ化でも発生する。

デフレになっても、その分すぐに給料が下がることはない、でもデフレ下なのでお金が惜しい……となったらどうなるか。だれかのクビを切るか採用を減らすのだ。


統計局ホームページ/労働力調査(基本集計) 平成26年(2014年)9月分結果 より。

日銀は2013年4月にインフレ目標2%を宣言した(2%の「物価安定の目標」と「量的・質的金融緩和」 :日本銀行 Bank of Japan)。
その後失業率は減少傾向にある。

賃上げ要求は別途やっていくとして、まず優先すべきはデフレ脱却だ。

なんで2%なの?

日銀が掲げた「二年で2%の物価上昇」を実現することに大義はあるのだろうか。

東京新聞:日銀追加緩和 危ない賭けではないか:社説・コラム(TOKYO Web)

なんで2%かというと、

  1. 不況だと賃金は高い水準で粘着して失業者を生む
  2. ちょっとのインフレがあればバランスが取れる
  3. 2桁近いインフレ率だとスパイラルを引き起こす

という理屈で、年率2〜3%のインフレが適切、というのが経済学者の定説だからだ。

この記事は左翼への応援歌だ

今回槍玉に挙げた東京新聞の社説(東京新聞:日銀追加緩和 危ない賭けではないか:社説・コラム(TOKYO Web))は左派の典型的な誤解が詰まってると思う。

彼らは、

  • 消費税増税と金融緩和を「物価上昇」でいっしょくたに批判している。
  • インフレは株価が上がる→金持ちだけが儲かる、と思っている。
  • 海外との競争力を高めるために円安が引き起こされていると思っている。

以上がぜんぶ誤解に基づくものだ、ということが伝われば幸い。

この記事は左派・リベラルへの応援歌だ。

(正直ぼくは、共産党が金融緩和賛成してくれたら理想のリベラル政党だと思ってる。)

消費税増税反対、金融緩和賛成、これでなにか困ることある? たぶんないと思う。

消費税増税反対、金融緩和賛成の声が少しでも大きくなりますように。

参考文献


この世で一番おもしろいマクロ経済学――みんながもっと豊かになれるかもしれない16講

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ガチの経済学の教科書をガチで読み通すのは大変だけど、「1人でも多くの人が本書くらいの内容を理解すれば、たぶん日本も、そして世界も、もっとよい経済政策への道に向かえるんじゃないか」うん。そうですね。


良い経済学 悪い経済学 (日経ビジネス人文庫)

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本書で語られる「貿易はゼロサム・ゲームじゃない。途上国の発展は先進国にとって望ましいことだ」という事実は本当に喜ばしいことだ。特に会計恒等式(貯蓄−投資 = 輸出−輸入)一個で「国と国が競争している」という勘違いを打破する5章は痛快。12章『技術の復讐』はSFファンにおすすめ。


クルーグマン教授の経済入門

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「インフレは意外とそんなに悪くない」とか、経済の基本を学ぶきっかけになったのがこの本。インフレターゲティング論争の火付け役になった 日本がはまった罠 併録。ぼくが参照したのは上記↑だが、
クルーグマン教授の経済入門 (日経ビジネス人文庫)

クルーグマン教授の経済入門 (日経ビジネス人文庫)

クルーグマン教授の経済入門 (ちくま学芸文庫)

クルーグマン教授の経済入門 (ちくま学芸文庫)

文庫版が出ている。内容の差分については未確認。

付録:plotly について

今回グラフはプロトリーを使って作りました。

https://plot.ly/

プロトリーはプログラミング知識いらず、表計算ソフトを使うような感覚で、インタラクティブなグラフを作成、共有できます。

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昨今、公的な統計情報が手軽に手に入るようになりましたが、公開されているデータも見たり使ったりしなければ意味がありません。

こういったリソースは今後さらにガンガン活用されて欲しいと思いますので、グラフの作成方法など、疑問点あればお気軽にコメント欄をご活用ください。