廿TT

譬如水怙牛過窓櫺 頭角四蹄都過了 因甚麼尾巴過不得

妖怪が先か造形が先か

妖怪はどこから生まれるか

 小松和彦は妖怪概念を3つの意味領域に分けることを提唱しました。

  1. 出来事としての妖怪(体験;現象−妖怪)
  2. 超自然的存在としての妖怪(命名;存在−妖怪)
  3. 造形化された妖怪(造形;造形−妖怪)

 この枠組みに沿って「家鳴り」(家鳴 - Wikipedia)を考えてみます。
 例えば、「家がガタガタなりだす」という不思議な現象があり(体験)、それが「家鳴り」と命名され、小鬼が家を揺すっているような絵に表され(造形)、「妖怪」というものが完成するわけです。

 ……とこのように妖怪成立のプロセスがすっきり整理できれば話は簡単なのですが、そううまくはいきません。

図像と妖怪のジレンマ

 むかし、日本の幽霊は「足がない」のが一般的でした。
 google:image:円山応挙 幽霊

 しかしこれ、もともとは幽霊の「ぼんやりした感じ」を絵で表現するために、下半身をかすませるように描いたことがもとになっています。

 つまり、「足のない幽霊の絵」という造形から、足のない幽霊という現象が生まれているのです。

 最初に提示したのは、体験→命名→造形というプロセスでしたが、このような造形→体験という転倒もよく見られます。

 般若のお面や、置物のだるまなどは、造形として生み出されたものですが、これは新たな妖怪を生む源泉になりました。

 google:image:滑稽達磨

 水木しげるは滑稽だるま(だるまに手足が生えているもの)をもとに、4階が存在しないアパートの4階をだるまが借りに来るという話を書きました。(少年マガジン版の鬼太郎

 その影響かどうかはわかりませんが、だるまも妖怪化しています。

 京極夏彦は『妖怪馬鹿―化け物を語り尽せり京の夜』でだるまがトコトコ走り回る話を怪談として聞いた、と述べています。

妖怪馬鹿―化け物を語り尽せり京の夜 (新潮OH!文庫)

妖怪馬鹿―化け物を語り尽せり京の夜 (新潮OH!文庫)

↑ぼくが持っているのはこっちだが、

完全復刻・妖怪馬鹿 (新潮文庫)

完全復刻・妖怪馬鹿 (新潮文庫)

↑復刻版が出ている。

 だるまは新たな都市伝説にも登場します。

 また、般若のお面はお面ですが、この顔をした幽霊が化けてでたという話も記録されています(水木しげる『幽霊画談』pp.66-67)

 こうなってくると難しいのは、ろくろ首などの解釈です。
 武村政春は、寺島良安『和漢三才図会』(十八世紀初等)→鳥山石燕画図百鬼夜行』(十八世紀末)→水木しげるら(二十世紀)と時代が下るにつれてろくろ首の首が太くなっていることを指摘しました。

ろくろ首考―妖怪の生物学

ろくろ首考―妖怪の生物学

ろくろ首考: 妖怪の生物学 - 武村政春 - Google ブックス

ろくろ首 和漢三才図会 巻十四
飛頭蛮 - Wikipedia

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ろくろ首 - Wikipedia

 良安、石燕は飛頭蛮と書いて「ろくろくび」と読ませています。

 ろくろ首が中国の飛頭蛮由来とすれば、これは首がのびる怪異ではなく、首が抜ける怪異です。

 首が抜けて、す〜っとさまよい、魂だけはつながっている感じを示すものとして、首と体をつなぐ線を描いたことになります。
 それが伝言ゲームのように伝わり、首が伸びる怪異に変質してしまったのかもしれません。

 しかし、「ろくろ首」という名称に着目すれば、ろくろ首は首が伸びる怪異です。ろくろとは陶芸で粘土を伸ばす道具だからです。
 
 歌舞伎の怪談ものなどに首が伸びるギミックを取り入れたものがあったようで、江戸のろくろ首人気にそれらが関係していることは間違いがないのですが、ろくろ首がもともと首が伸びる怪異だったのか、首が抜ける怪異だったのかはわかりません。

 造形が先にあって後から「首が伸びる」という現象が生み出されたのか、「首が伸びる」という現象が先にあって、漢籍に詳しい石燕、良安が飛頭蛮(ろくろくび)という文字を当てたのか、わからないのです。

水木しげるの絵について

 水木しげる絵の元ネタ - Togetterまとめ

 水木しげるの妖怪画の元になった造形は、置物、彫刻、お面など立体的なものが多くふくまれています。

 水木漫画は、点描を多様したリアルな背景に、デフォルメされたいかにも漫画的なキャラクターという特異なスタイルを持っています。その源泉はそこにあるのかもしれません。

 つまりデフォルメされた立体物を、ふつうの3次元の空間にポンと置いたら、あら不思議、リアルな背景にデフォルメされたキャラクターが違和感なく溶け込んでしまいます。

 水木絵のセンスはこういった、言わば3次元的コラージュの感覚から生まれたのかもしれません。

 おまけ:鬼太郎夜話の肉片を引っ張り合うガイコツの元ネタはジェームズ・アンソールですな。

鬼太郎夜話 (ちくま文庫 (み4-16))

鬼太郎夜話 (ちくま文庫 (み4-16))

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『燻製ニシンを奪い合う骸骨たち』
roškofrenija: James Ensor (1860-1949) - Christ's Entry Into Brussels in 1889

参考文献(本文中に言及のないもの)

日本の妖怪 (図解雑学)

日本の妖怪 (図解雑学)

 図解雑学シリーズは意外と(というと失礼ですが)良書が多く、本書は妖怪の教科書スタンダードと言えるものです。
 民俗学者小松和彦先生が監修。

 昔は入手困難だった古い文献もいまでは、

などで簡単に参照可能になりました。ありがたいことです。

 それでも紙の本が手元にあると便利で、

妖怪萬画 (第1巻 妖怪たちの競演編)

妖怪萬画 (第1巻 妖怪たちの競演編)

妖怪萬画 (第2巻 絵師たちの競演編)

妖怪萬画 (第2巻 絵師たちの競演編)

は手軽かつおもしろいです。






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