廿TT

譬如水怙牛過窓櫺 頭角四蹄都過了 因甚麼尾巴過不得

昔はヤンチャもしたけど今は育ててくれた親にマジ感謝系日本語ラップの歌詞解説:ドレミの歌としてのヒップホップ

日本語ラップの感謝率は異常?

【2ch】ニュー速クオリティ:日本語ラップの感謝率は異常
↑それを言ったら、日本語ラップの理解されなさも異常じゃないかな……

と思うのでちょっとこれから「昔はヤンチャもしたけど今は育ててくれた親にマジ感謝」系日本語ラップの解説を書く。もしよかったら読んで欲しい。


「日本のヒップホップやラップはやたらと親にマジ感謝してる」

まず言うほどそんなに親にマジ感謝してる曲ってあるかな?

いや、あるな。

例えばサイプレス上野とロベルト吉野

でもサイプレス上野とロベルト吉野は閑静な住宅街とか私立一貫校出身ではないし(知らないけど、たぶん中卒とかじゃないの)、ゲットーとかの悪そうなイメージで売ってるわけでもない。
ワルじゃなくてボンクラって感じ。

「閑静な住宅街とか私立一貫校出身とか目立つ」というのはライムスターとかキングギドラだろうか。

どちらも日本語ラップの代表格。

サイプレス上野とロベルト吉野、ライムスター、キングギドラ、ぜんぶ別人なんですよね。
エヴァンゲリオンガンダムを一緒にするようなもん。
遠くから見たら似たようなもんだけど、ファンにとっては大違いだ。

さんざ悪いことしてきたけど、いまは親にマジ感謝系ラップの源流はたぶん 2Pac の "Dear Mama" だと思う。

歌詞の和訳をしてくれる人がいた。
2Pac/2パック①~『Dear Mama/ディア・ママ』

日本語ラップは外国人のものまねばっかしてて、みっともないみたいな意見もよく聞く。

それはその通り。みっともないっちゃみっともない。

だけど考えてみて欲しい。外国人に日本がどう見られてるのかを気にするのも、日本SUGEEEEEEEEEEって自画自賛するのも、みっともないっちゃみっともないでしょう。

日本SUGEEEEEEEEEEってなることを書いてくスレ : あじゃじゃしたー
(ヒップホップ用語では自画自賛のことをセルフボーストと呼ぶ。ボースティングはひとつの手法として、肯定的に扱われる。)

どっちに転んでも五十歩百歩、ぼくらはいまだに思春期なんだよ。

あと、ヒップホップにはサンプリング/本歌取り的な文化がある。

例えば「チェケラッチョ」とか「イェッセッショー」とか「デイバイデイ」とか、ヒップホップでよく使われるフレーズ(これをルーチンと呼ぶ)をわざと使うっていうこともよくある。

例えば、ブッダブランドの "illson" で、CQ は「チェケラッチョー ファンキー仏教」と歌っている。
「チェケラッチョー」と「ファンキー仏教」で韻を踏んでるわけなんだけど、「ファンキー仏教」ってなんだよ。そんな言葉ねえよ。
こうなってくると、外国人のものまねもおもしろいでしょ。

「ゲットーとか言うと逆にマジ恥ずかしい。」

ゲットーとか言う悪そうな日本語ラップの代表格といえば MSC の漢だと思う。

↑3:30ごろから『心にゆとりとさわやかマナー』という曲がはじまる。

いかれた家庭に産まれ いかした仲間に恵まれ
無我夢中でつっぱしった B-boy のハシクレ
学力はねぇけど鍛えてきた腕力 ポリ公が偉そうに言った俺に しばらく
おりこうさんにしてろったって そりゃ無理な相談
遊び金欲しさにどついちまって悪かったなおっさん
恐喝に窃盗 狡猾に強盗 他の地区との抗争 楽しくて失禁しそう
新宿署 戸塚署 中野署 原宿署 取り調べ室の壁につけてきた鼻クソ

典型的な悪さ自慢でしょ。

で、この直後に漢は
「だけど見つけちゃったからぼくヒップホップ」
と語ってる。

ここに注目してほしい。

これはそれまで暴力でしか自分を表現できなかった人たちが、音楽によって自分を表現する新しい手段を見つけた、ということだ。

名作映画『サウンド・オブ・ミュージック』において、ドレミの歌は名シーン中の名シーンだ。

サウンド・オブ・ミュージック』の中で、ドレミの歌は家庭教師が子どもたちにドレミファソラシドを教えるために歌われる。
最初、家庭教師が来る前〜来たときは、子どもたちは悪ガキでいたずらばっかりして大人を困らせていた。
でも、家庭教師から音楽を教わってから、子どもたちは悪いことをしなくなる。

これまで暴力でしか自分を表現できなかった人たちが、音楽によって自分を表現する新しい手段を見つける瞬間が描かれるからこそ、ドレミの歌は感動的なんだ。

ヒップホップも同じだ。


そして悪さ自慢はプロレスでもある。

REAL 13 (ヤングジャンプコミックス)

REAL 13 (ヤングジャンプコミックス)

『リアル』は車いすバスケの漫画なんだけど、13巻はなぜか完全にプロレス漫画になってる。だからいきなり13巻から読んでもたぶん感動すると思う。

ここでは、悪役レスラーの活躍が描かれる。

学校の中では居場所のないいじめられっ子だったアイツが、悪役レスラーの活躍に胸を焦がす。

正統派ヒーローのイケメンレスラーを、反則技でボコボコにいたぶる姿に胸を焦がすのだ。

ヒップホップもおんなじだ。

そりゃあ、悪いことしちゃだめだよ。わかってるよ。だけど、娯楽の世界でくらい悪いことしたっていいじゃないか。

正論ばっかの世の中じゃ息が詰まっちまう。

泉谷しげるもこう歌ってた。

僕達に今一番必要なものは 熱い恋や夢でなく
眩しい空から降ってくる 白雪姫の毒リンゴ

白雪姫の毒リンゴ

白雪姫の毒リンゴ

泉谷しげる - Wikipedia

ちなみに、泉谷しげるはこどもの頃は病弱だったらしいけど、今は暴れん坊イメージで売ってる。
泉谷はエレックレコードのよしだたくろう退社後の看板スターとして迎えられた。そのとき、東京出身ではフォークシンガー的にハクがつかないので、青森出身として売り出された。
(生まれは青森、育ちは東京だったそうな)

これは閑静な住宅街出身なのに、ゲットーとか自称するのと同型だ。

歴史は繰り返すのだ。(ただし二度目は茶番として?)

ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日 (岩波文庫 白 124-7)

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文化系のためのヒップホップ入門 (いりぐちアルテス002)

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