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譬如水怙牛過窓櫺 頭角四蹄都過了 因甚麼尾巴過不得

ウォッチメンに見られるバロウズの影響:PlanetComics.jp出張版 「ウォッチメン」特集サイトの落ち穂ひろい

エピグラフ

そのなかに夥しい数の古典の引喩があることは、事実である。が、この小説のあらゆる登場人物、あらゆる場面のなかに古典との親密な並行・対応を探し出そうとするのは、まったくの時間の浪費であるだろう。なにが退屈といって、すりきれた神話に依拠した寓話を引き伸ばしてつづけることほど、退屈なことはない。


ウラジーミル・ナボコフナボコフの文学講義 下』野島秀勝 訳(河出文庫)p.211

ナボコフの文学講義 下 (河出文庫)

ナボコフの文学講義 下 (河出文庫)

はじめに

いまさら言うまでもなくウォッチメンはすごくおもしろい漫画なのでみんなに読んでもらいたい。

ウォッチメン - Wikipedia

日本の漫画とはだいぶ勝手が違うので、おそらくふだん漫画を読み慣れてる人ほどかえって読みにくいだろう。

日本の漫画がアニメーションや顔文字ヾ(*´∀`*)ノキャッキャに近いすると、こちらはコラージュやモンタージュに近い。いや、アニメはアニメでも、ボラギノールのCMみたいなストップモーションアニメに近いのかもしれない。

最初はそれを意識して能動的に絵を読むといいと思う。20ページ目くらいからだんだん慣れてきてグイグイ読めるようになる。

ものすごく大雑把なあらすじとしては、コメディアンっていうスーパーヒーローが殺害されるところからはじまり、その犯人をロールシャッハっていうスーパーヒーローが推理するっていうディテクティブストーリーなんだけど、その過程で20世紀アメリカ、特に東西冷戦が描き出されるというか……まあいいや、包括的な論評は彼らに任せよう。

本題

PlanetComics.jp出張版 「ウォッチメン」特集サイト
このページはすごい労作で、ウォッチメンに一コマ単位で注釈をつけてる。

ただ、バロウズについての言及が少なかったので追記してみたくなった。

PlanetComics.jp出張版 「ウォッチメン」特集サイト: バロウズの検索結果

パターンの繰り返しという手法は、ムーアが尊敬する作家ウィリアム・S・バロウズが、唯一手掛けたコミックス『アンスピーカブル・Mr.ハート』で見せた手法であるといい、ムーアのバロウズへの傾倒ぶりが伺える。

PlanetComics.jp出張版 「ウォッチメン」特集サイト: 「ウォッチメン」原作コミック解説(1) CHAPTER 1 [P1~P12]

ムーアのバロウズへの傾倒ぶりが伺える場面は他にもいくつかある。

もちろん、別にバロウズの引用がいっぱい入ってるからといって、「うーむ、これは深い」とかなるものでもないし、元ネタを言い当てたからってえらいわけでもないんだが、まあそういうのもたまにはいいだろう。



〈いろんなところで何度か登場する雑誌の名前〉
ノヴァ・エクスプレス:元ネタはまんまバロウズノヴァ急報Nova Express)。

ノヴァ急報

ノヴァ急報

絶版。
ただし訳者の山形浩生氏が公開してくれてるので読める。
ノヴァ急報 ←著作権的にはグレーだが…

ペヨトルが解散してしまったし、入手できなくなってしまったので、文だけは見られるようにしておく。ただし関係者以外は見てはいけません。あと印刷とかはできないので悪しからず。

http://cruel.org/books/books.html

と明記されてるし、関係者以外は見ないからセーフなのです。


〈CHAPTER IVで繰り返されるフレーズ〉
写真が落ちる:元ネタはバロウズが戦闘シーンでよく使うフレーズ(Photo falling)。
前述のノヴァ急報にも出てくるし、ソフトマシーンにも出てくる。

「全国家のパルチザンに告ぐ――ことばをずらせ――言語線を切れ――旅行者振動――戸口開放――写真がおちる――ことばがおちる――灰室内突破」


ウィリアム・バロウズ『ソフトマシーン』山形浩生柳下毅一郎 訳(河出文庫)p.176

ソフトマシーン (河出文庫)

ソフトマシーン (河出文庫)

なんでこれが戦闘シーンで頻出するかというと、バロウズの小説には「カメラ・ガン」*1という武器があるからだ。「カメラ・ガン」は撮影することによって画像を振動圧縮してホワイト・ノイズに変えることができる。
バロウズの世界観では、この現実は言葉によってでっちあげられた映像みたいなものだ。我々をこの現実にしばりつけてくる宇宙人みたいな存在を暴き立てることがバロウズの戦いであり、そのための武器の一つが「カメラ・ガン」なのだ。
……なにを言ってるのかよくわからないと思うが、俺にもわからん。


〈P347〉
PANEL2
複数の画面を同時に眺める感覚は、ウィリアム・バロウズが提唱したカットアップ技法を思わせる。彼は、単語とイメージを一見無秩序に並べて提示することで、論理的分析を避け、未来の印象を潜在意識的に把握させようとした。」
:オジマンディアスが直接バロウズに言及している。オジマンディアスというスーパーヒーローは天才実業家なので同時に複数のモニタを眺めて、「よし、次はここに投資しよう」とか決めるのだ。

先述の CHAPTER IV は、過去・現在・未来を同時に認識できるスーパーヒーロー、DR. マンハッタンの一人称視点で過去・現在・未来を同時進行で描いているのだけれど、これにもおそらくカットアップが断片の積み重ねで場面場面を描き出したコラージュ的な感性が影響していると思う。

ウィリアム・バロウズのカットアップ技法といういうのは、印刷物を適当に切って並べかえ、適当に作ったフレーズをそのまま小説に使うというものだ。
当然、できあがった文章は支離滅裂なものになる。

カットアップ - Wikipedia

小野ほりでいみたいに単語や短いフレーズ単位で切って貼り付けるのではなく、紙を長方形に分割してずらして並べかえ、それを見ながらタイプライターで打ち込むというやり方だったみたいだ。*2

だからバロウズの小説では同じフレーズが切り刻まれて何度も登場することになる。

あとがき

バロウズがなんかのきっかけで再評価されて、ペヨトル工房解散以来絶版になってる、

おぼえていないときもある

おぼえていないときもある

や、
ノヴァ急報

ノヴァ急報

や、
おかま

おかま

が復刻されて、「爆発した切符」の新訳も出るといいな。

そんでみんななんかのきっかけでまちがって買っちゃってなんだこりゃってなったらいいな。

そう思う(ただし、『おかま』はふつうに読んでも読める)。


たかがバロウズ本。

たかがバロウズ本。

↑15〜17才くらいのときのぼくのバイブル。すごい本だよ。何度も読み返してる。

ライティング・マシーン―ウィリアム・S・バロウズ

ライティング・マシーン―ウィリアム・S・バロウズ

↑読んでないけど、おもしろそう。

*1:上述、『ソフトマシーン』p.112などを参照。

*2:なんかの映像で見たんだが、どこで見たのか忘れてしまった。