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譬如水怙牛過窓櫺 頭角四蹄都過了 因甚麼尾巴過不得

アンチ精神分析としての認知行動療法ガイド

「自分なりに人の考えかたを理解する」は無条件に良きことではない

精神分析のアプローチは推理小説に似ています。*1
もっと言うと、西尾維新化物語シリーズに似ています。

猫物語 (白) (講談社BOX)

猫物語 (白) (講談社BOX)

精神分析が提示したストーリーは、症状の背景には抑圧があり、無意識化で抑圧されたもの(トラウマ)を意識の舞台に浮かび上がらせることで症状が改善する、という仮説です。

しかし、症状の原因を突き止めることと症状を改善することはまったく別の営みです。

例えば、あるところに蛇恐怖症の人がいたとします。

  1. 蛇は男性器の象徴で抑圧された性交への嫌悪感が蛇への恐怖として現れているのかもしれません。
  2. あるいは幼いころにベルトでぶたれたことがあり、そのトラウマから長くてクネクネしたものを恐れるようになったのかもしれません。
  3. 蛇は聖書ではイブをそそのかした悪者だけど日本では神様に近い存在です。蛇を遠ざけることは日本的なものから距離を置き西洋に近づこうとする白人コンプレックスの発露かもしれません。

でも、別にそんなことはどうでもいいのです。

いずれにせよ蛇恐怖症の原因が分かったところで蛇への恐怖がなくなることはないからです。

精神分析に治療効果がないことは

精神分析に別れを告げよう―フロイト帝国の衰退と没落

精神分析に別れを告げよう―フロイト帝国の衰退と没落

などで詳しく指摘されています。*2

もちろん、あれこれ原因を推測すること自体は悪いことではないですが、根拠のない憶測は偏見につながるおそれがある、ということを理解した上でやるべきだと思います。

例えば、「ベルトでぶたれたことが蛇恐怖症の原因」という憶測は「ベルトでぶたれたことがある人は性格が歪む」という偏見を反映していませんか?

最近のニュースでなんかの殺人かなんかの容疑者が昔いじめられていてどうの、という話をしていました。こういうのは「いじめられた人は犯罪者になりやすい」という偏見の発露でしかないと思います。

人の性格というのは遺伝と環境の相互作用で決まります。

最近の認知科学では、遺伝の影響は意外なほど大きいことが分かってきました。

人間の本性を考える  ~心は「空白の石版」か (上) (NHKブックス)

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (上) (NHKブックス)

人間の本性を考える  ~心は「空白の石版」か (中) (NHKブックス)

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (中) (NHKブックス)

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) (NHKブックス)

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) (NHKブックス)

↑これ以外にもピンカーさんの本はおもしろくて読みやすいのでおすすめ。

この人はなんでこんな考え方をするのだろう? 親兄弟がこうだから、こういう信仰を持ってるから、こういう教育を受けたから、それもあるかもしれません。

でも、それはいろいろある要因のうちの一つの変数です。

ですので、この人はこういう考え方だ、と分かったとしてもそれは単に自分の人生経験を無自覚に一般化したものに過ぎないかもしれない、という自己批判を頭の隅に置いてください。

言ってもしようがないことは言ってもしようがない。

なんでこういうことをすると症状が改善されるのか? それが分からなくても、「こういうことをすると症状が改善されることが多い」ということは調査可能です。

そういう調査の積み重ねで行動療法が生まれました。

精神医療以外の医療分野でも、「なんでか分からないけどこの薬飲むと症状が改善することが多い」という調査結果がまず先にあって、その薬がなんで効くのか? は後付けで考える、というのが普通です。

医学薬学はそれでいいのです。

行動療法の「行動」をより広い意味に拡張したのが認知療法です。

認知療法は、レコーディングダイエットみたいなものです。

大ざっぱに言うと、気分やそのとき考えたことを記録して観察することで、症状が改善することが多いのです。

記録と観察は、症状の原因を突き止めることとは似て非なるものです。

蛇恐怖症の例えでいうと、

  1. 蛇に出会った時間
  2. 蛇を見たときどんな気分だったか
  3. 蛇を見てどんなことを考えたか
  4. 蛇を見た後どのくらい恐怖感が続いたか

などを記録するのです。

それは自分の恐怖感についての学習に近い営みです。

学習は一朝一夕にはなりません。

英語の文法を習っても、英語を話せるようにはならないように、学習は繰り返しと続けることが大事です。

おまえは微分積分がわかってないと言われても微分積分がわかることはありません。

ですので本当に他人のためをおもうなら、言ってもしようがないことは言ってもしようがないのです。

どうせアドバイスをするのなら、意味のあることを言いたくないですか?

意味のあることを言う一番手っ取り早い手段は勉強をすることです。

勉強をしましょう。

精神分析大好きっ子たちは勉強がたりない。

世界はわれわれに解決されるのを待っている魅力的な課題でいっぱいです。

勉強をしてください。

アンコモンセラピー―ミルトン・エリクソンのひらいた世界

アンコモンセラピー―ミルトン・エリクソンのひらいた世界

認知行動療法ではないが原因よりも行動にフォーカスしたアプローチ。精神療法というより憑物落としみたいな感じで、エリクソンが神がかってる。およそ凡人に真似できるしろものではないが、とにかくおもしろい本なのでおすすめ。

〈増補改訂 第2版〉いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法

〈増補改訂 第2版〉いやな気分よ、さようなら―自分で学ぶ「抑うつ」克服法

認知行動療法の全体像を学びたければとりあえずこれ。

自傷行為とつらい感情に悩む人のために―ボーダーラインパーソナリティ障害(BPD)のためのセルフヘルプ・マニュアル

自傷行為とつらい感情に悩む人のために―ボーダーラインパーソナリティ障害(BPD)のためのセルフヘルプ・マニュアル

↑メンヘラのための本。やさしくて好き。

うつと不安の認知療法練習帳

うつと不安の認知療法練習帳

↑セルフヘルプ本としてていねい。

*1:僕は、探偵小説と精神分析が20世紀の象徴だと思っています。

*2:精神分析が科学じゃないことなんて百も承知。トラウマとか無意識は隠喩的な操作概念であって云々」ということをいう人がたまにいますが、現実に当てはまらない概念をわざわざメタファーに使う必要は? ないでしょう。治療効果がないものが治療として普及してしまった場合、患者が適切な治療を受ける機会がその分失われます。