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廿TT

譬如水怙牛過窓櫺 頭角四蹄都過了 因甚麼尾巴過不得

心のともしび 宗教の時間

知ってる人にとっては当然の前提になっているのでわざわざ教えたりはしないけど知らない人は教わってないので知らない、みたいな事柄はけっこうある。

宗教には民族宗教世界宗教がある。

ここにこれから書くことは僕にとってもいつのまにかそう思っていたようなことなので参考文献とかを挙げることはできないし特に根拠もないんだけど、こういう考え方もあるよ、と知っておいたほうが混乱しにくくなると思う。

世界宗教というと言葉が強いので、一般宗教とか新興宗教とかに言い換えたいところだけどここは慣例に習う。

民族宗教はどうやって生まれるか

人間はいろんなことを考える。人間は人間から生まれるけどお母さんのお母さんのお母さんの……という具合にずーっとさかのぼっていくと最初のお母さんは誰から生まれたんだろうとか、地震や雷みたいな自然現象はなにがどうなって起こるのかとか。そういう疑問に答えるためのもの、現代からみれば科学技術と民話と生活習慣のごった煮みたいなものは各地各地に半ば自然に生まれる。

でも人間は遠くの人とも交流する。戦争もする。そうするとこっちのごった煮とむこうのごった煮の異なる点が目に付く。異なる点があると混乱するのでごった煮状態のものをある程度ちゃんとした形にまとめ直して他人から質問されてもある程度ちゃんと答えられるように必要が出てくる。こうして生まれるのが民族宗教だ。

だから基本的には民族宗教には開祖がいないし布教という発想もない。地域のコミュニティのなかに入るためにはこの習慣に従うのが自然だよね、という形で共有される。

世界宗教はどうやって生まれるか

世界宗教は既存の宗教へのアンチテーゼとして生まれる。民族宗教であるユダヤ教へのアンチテーゼとして生まれたキリスト教や、民族宗教であるバラモン教へのアンチテーゼとして生まれた仏教がそれだ。もちろん世界宗教へのアンチテーゼとして生まれる世界宗教もある。イスラム教ユダヤ教キリスト教を踏まえて生まれた宗教だし、バハーイー教ユダヤ教キリスト教イスラム教を踏まえて生まれた宗教だ。これらは既存の宗教の時代に合わなくなってきた部分だったり差別的だったりする部分を否定する運動としてスタートするのでちゃんと人を説得しなくてはならない。だから開祖や戒律や教義がわりとはっきりしているし布教という発想がある。

世界宗教民族宗教

世界宗教民族宗教の区別はじつはあんまり厳密じゃない。ユダヤ教はもともとは民族宗教だったんだろうけど非常に世界宗教に近い。旧約聖書を読めばわかる通り、ユダヤ人は他の民族との交流(戦争)が非常に多かった。そのせいか戒律や教義がはっきりしているし他の宗教からユダヤ教徒に改宗することもできる。

世界宗教と異なる点をまとめなおすことによって、民族宗教もだんだん世界宗教的な性質をおびていく。道教老子みたいに、もともと自然発生的であっても伝説的な開祖があとから生み出されたりもする。

ここまで読んでわかること

民族間の違いから生まれる民族宗教にしろ、いまある宗教を改革しようとして生まれる世界宗教にしろ、宗教は基本的に他者、意見が異なる人があってはじめて生まれる。

だから例えば「宗教は死の恐怖から逃れるためにある」というときどき聞く発言は必ずしも正しくない。「人は死ぬとどうなる?」という部分について、民族同士や宗教同士の対立がない限り、宗教は「人は死ぬとどうなる?」という疑問について答えてくれない。聖書を読んでも、人は死ぬとどうなるのかについてあまりはっきりしたことは書いていなかったと思う。仏教は基本的には輪廻転生、生まれ変わりをベースにしているけどこれは仏教が生み出したものではなくその地域に元からあった発想だ。

日本で暮らしていれば「わたし無宗教だけど幽霊はもしかしたらいるかもしれないと思うし生まれ変わりとかあるような気がする」みたいな人にはいくらでも出会うだろう。死生観は宗教がなくても成立する。

また、食物の禁忌についても、他者との対立と自己のアイデンティティの再構築という観点からみれば納得がいきやすいと思う。例えば自分たちに犬を食べる習慣がなくて敵対する民族が犬を常食していた場合、ここぞとばかりに「うわーあいつら犬なんか食ってるよ。野蛮だ。俺らは絶対犬なんか食わないもんね」と言ってやればこちらの結束が強まるわけだ。いや、そこまで露骨に対立を煽らなくても、みんなが豚を食べてるときに自分だけ豚を食べなかったら、「ああ、おれはイスラム教徒なんだなあ」と再確認できる。食物禁忌の多くはこういった役割を持ち得る。

参考文献

参考文献を挙げることはできないと書いたけど、とりあえず一冊だけ挙げておく。

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

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